映画『スリー・ビルボード』3枚の看板をめぐる3人の3つの心を描いた傑作(ネタバレ感想)

スリー・ビルボード

 

こんにちは、やまぴーです。
本日ご紹介する映画は、今年のアカデミー賞の最有力候補との声も高いこちらの作品です。

 

『スリー・ビルボード』日本版予告編

 

 

アメリカの片田舎の大通りに並ぶ3枚の看板に、
ある日突然、現れた真っ赤な広告

それは、地元で尊敬されている警察署長への
抗議のメッセージだった――。

 

娘のために どこまでやれるか?

誰もたどり着いたことのない結末へと連れ去る衝撃と感動のクライム・サスペンス

 

この『スリー・ビルボード』は、アカデミー賞ノミネートと、すでにゴールデン・グローブ、トロント、ベネチア、と数々の賞を受賞しているスゴい作品です。

<第90回アカデミー賞 6部門7ノミネート>
作品賞、主演女優賞、助演男優賞、作曲賞、脚本賞、編集賞

<第75回ゴールデン・グローブ賞 最多4部門受賞>
作品賞、ドラマ部門主演女優賞、助演男優賞、脚本賞

<トロント国際映画祭 観客賞受賞2017>

<ベネチア国際映画祭 脚本賞受賞2017>

 

映画ファンでなくても気になる『スリー・ビルボード』
まずはあらすじ、キャスト、そして感想はネタバレあり/なしのふたつです。

 

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あらすじ

アメリカはミズーリ州の田舎町エビング。さびれた道路に立ち並ぶ、忘れ去られた3枚の広告看板に、ある日突然メッセージが現れる。──それは、7カ月前に娘を殺されたミルドレッド・ヘイズ(フランシス・マクドーマンド)が、一向に進展しない捜査に腹を立て、エビング広告社のレッド・ウェルビー(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)と1年間の契約を交わして出した広告だった。
自宅で妻と二人の幼い娘と、夕食を囲んでいたウィロビー(ウディ・ハレルソン)は、看板を見つけたディクソン巡査(サム・ロックウェル)から報せを受ける。

一方、ミルドレッドは追い打ちをかけるように、TVのニュース番組の取材に犯罪を放置している責任は署長にあると答える。努力はしていると自負するウィロビーは一人でミルドレッドを訪ね、捜査状況を丁寧に説明するが、ミルドレッドはにべもなくはねつける。
町の人々の多くは、人情味あふれるウィロビーを敬愛していた。広告に憤慨した彼らはミルドレッドを翻意させようとするが、かえって彼女から手ひどい逆襲を受けるのだった。

今や町中がミルドレッドを敵視するなか、彼女は一人息子のロビー(ルーカス・ヘッジズ)からも激しい反発を受ける。一瞬でも姉の死を忘れたいのに、学校からの帰り道に並ぶ看板で、毎日その事実を突き付けられるのだ。さらに、離婚した元夫のチャーリー(ジョン・ホークス)も、「連中は捜査よりお前をつぶそうと必死だ」と忠告にやって来る。争いの果てに別れたチャーリーから、事件の1週間前に娘が父親と暮らしたいと泣きついて来たと聞いて動揺するミルドレッド。彼女は反抗期真っ盛りの娘に、最後にぶつけた言葉を深く後悔していた。

警察を追い詰めて捜査を進展させるはずが、孤立無援となっていくミルドレッド。ところが、ミルドレッドはもちろん、この広告騒ぎに関わったすべての人々の人生さえも変えてしまう衝撃の事件が起きてしまう──。(公式HPより)

このあらすじ、説明が長い割には確信に触れておらず、よくできてます。上の予告編も同じくです。実際に映画を観てみると、ビックリな衝撃が待ってますよ。

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キャスト

スリー・ビルボード

フランシス・マクドーマンド( ミルドレッド役 )
ウディ・ハレルソン( ウィロビー役 )
サム・ロックウェル( ディクソン役 )
アビー・コーニッシュ( アン役 )
ジョン・ホークス( チャーリー役 )
ピーター・ディンクレイジ( ジェームズ役 )

 

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ネタバレなし感想

この映画をひとことでまとめると、

先の展開は予測不能!
複雑に揺れ動き、絡み合う3人がそれぞれの許しを求める物語

評価:★★★★☆

こんな人におすすめ!
さまざまが人間ドラマが観たい人

こんな人にはNG!
Fワード(汚い言葉)が嫌いな人、終わりをハッキリさせたい人

 

まずはじめに、アカデミー賞ノミネートだけあって、かなりおもしろいです。
つぎに、そのおもしろい部分の大半がネタバレの部分になるので、説明が難しいです。

映画の予告編を観て、てっきり「怠慢警官たちをガツンと言わせる肝っ玉ババアの話」かと思ってたんですが、実際に観てみるとかなり内容違いました。

ガツンと言わされたのはこっちでしたよ。

映画を観た後でもう一度予告動画を観ると、「うまいこと隠してるなあ」って感心しました。(隠してる内容はネタバレパートにて)

 

やまぴー的には、この映画はかなりダークな内容だと思います。
もちろん、予告動画から感じるようなコミカルな部分もあるんですけど。

というか、コミカルな部分がなかったらダークすぎて観るの大変じゃないかな。
『デトロイト』並みに気が滅入りそう。あの映画は気が滅入るからアカデミー逃したんです。多分。

 

3枚の看板の登場による、3人の登場人物の善と悪、さらに善でも悪でもない心のあり方を、あるがままに綴っていきます。
仏教で言われる「人は誰にでも『功』と『罪』の面がある」と感じさせてくれる作品です。

やまぴーが感じた3人の共通テーマは「許し」
それぞれが自分の大切なものに対しての「許し」を求めています。

 

よくある「こうしたらこうなる」のお約束な展開がなく、3人のほかにも様々な人間の思惑が交差していき、物語はどんどん予測できない方向へ進んでいきます。
さらに、複雑に絡み合っていても、それら全部がラストへの伏線というわけでもありません。

『オーシャンズ』シリーズや『ローガン・ラッキー』のような伏線回収はナシ。
でもそこが逆にリアリティを感じさせて面白いです。
もちろん、ソダーバーグ監督の作品もおもしろいですが。

 

ラストは、人によっては中途半端で物足りないと感じるかもしれません。
やまぴー的にはこの映画にふさわしいラストだと思いました。
どんなことがあっても、人も世の中も大きな運命の中で進んでいく。

「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。」
日本の古典の「方丈記」を思い出しそうです。

そう考えると、この映画ってけっこう日本的なのかしら。
マクドナー監督って北野武監督が大好きみたいだし。

とてもオススメの映画です。まだ観てない人はぜひ映画館へ!

 

※ここから先はネタバレありです。知りたくない人は映画鑑賞後にまたお会いしましょう。

 

スリー・ビルボード

 

アカデミー賞ノミネート

 

 

なのに、まだ観てないの?

 

 

どうして、ウィロビー署長?

 

 

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ネタバレあり感想

ここからはネタバレありで好き勝手書かせてもらいます。

なお、今回は普段にも増してやまぴーの独りよがりな意見を書かせてもらいます。でも感想ってそういうもんだよね。

隠された3つの秘密

この映画では、予告編を観てもわからない、意図的に隠された秘密が3つありました。
おかげで観る前とあとでは映画に対するイメージがかなり違います。

その① 1枚目の看板

RAPED WHILE DYING
(レイプされて殺された)

しっかり隠されていた娘の死因。2枚目、3枚目の看板は予告編でさんざん登場してるのに、1枚目の看板はいまだに公式HPでも隠されています。
「殺された」では、殺人に対して曖昧なイメージです。コンビニ強盗の巻き添えも車のひき逃げもぜんぶ殺人です。ただ、レイプ殺人は殺人のなかでも最悪の部類ではないでしょうか。
しかも生前の娘に投げた最後の言葉が「レイプされてしまえ」ならば、最悪のなかのさらに最悪でしょう。
「殺されろ、とまでは言ってない」と言い返されそうですが。

ちなみに、2枚目と3枚目の内容はこちら。

AND STIL NO ARRESTS?
(逮捕はまだ?)

HOW COME, CHIEF WILLOUGHBY?
(どうして、ウィロビー署長?)

その② ウィロビー署長の膵臓ガン

殺人事件もお構いなしの怠慢コップかと思ったら、実は住民を愛し住民にも愛されるハートフルな署長。しかも末期の膵臓ガンに侵され、家族と最期の終活中。

そんなところに看板立てたら波風も立つよね。

その③ ディクソンの存在

予告編でも登場はしてますが、その変態性はしっかり隠されていたダメダメ警官ディクソン。
人種差別はするわ、住民へ不当逮捕から暴力までなんでもするわの超絶トラブルメーカー。しかもその行動の根幹にあるものが「悪」というより「バカ」だから始末に負えません。
しかもそのバカが後半は獅子奮迅の大活躍。
映画館を出るときは誰もが「これディクソンの映画だったよな」と感じたはずです。

 

ミルドレッドについて

スリー・ビルボード

予告編では「誰が相手でも一歩も辞さない肝っ玉ババア」なイメージでしたが、映画を観たあとでは、殺された娘への後悔で押しつぶされそうな悲しい母親に見えます。

彼女が看板を立てた理由は、「犯人が見つからないと、自分が娘を殺したことになってしまう」からでしょう。
人々が事件のことを忘れられても、ミルドレッドは忘れられません。なぜなら娘を殺したのは自分だから。本当の犯人が見つかるまでは。

娘の生前に良い母親ではなかったミルドレッドが娘に許しを乞う方法があるならば、それは「犯人を見つける」ことしかありません。

娘のためというより、ミルドレッド自身のための犯人さがし。
こう書くとミルドレッドがとても自分勝手な人間みたいですが、人間なんてもともと自分勝手なもんでしょう。

そして予告編では缶を投げた生徒の股間を蹴り上げるなど、暴力的なイメージが強い彼女ですが、実際はDVの元旦那や店に来たならず者など「本物の暴力」に対してはあまりにも無力。

「死んだ娘の許しを乞うため、虚勢を張り続ける無力な母親」
それがやまぴーのミルドレッド像です。
うーん、悲しいなあ。

 

ウィロビーについて

スリー・ビルボード

仕事ぶりは真面目で部下からも住民からも信頼されているウィロビー署長は、ただいま家族との終活アルバムづくりの真っ最中。
この映画ではかなり「善人」のポジションにいる彼ですが、ちょくちょくズルいこともしています。

ミルドレッドに看板を取り下げさせるために、自分のガンを話して同情を誘おうとしてますが、それは遺族には関係ない話だよね。

また、「犯人はかならず捕まえる」と言ったあとで、「証拠のない事件もある」と前言撤回みたいなことを言ったりして。

なにより家族に黙って自殺するのが汚い。本人は良くても家族の思い出は汚れちゃうよ。

「自分だけの終活アルバムづくりに夢中な良い署長」
が、ウィロビーのイメージです。

余談ですが、キリスト教(およその宗教)で罪とされている「自殺」をキリストが生まれた「馬小屋」でやるというブラックすぎるユーモアが好きでした。
心配そうに見てる馬がかわいかった。

 

ディクソンについて

スリー・ビルボード

存在そのものが衝撃すぎるディクソン。
クソ警官度でいえば映画『デトロイト』に出てた警官に負けてません。
むしろ頭の悪さはディクソンの勝ち。映画史に残るスピード解雇じゃないでしょうか。

でも実家の様子を見たら「あの母親じゃ仕方ねえな」となぜか同情心が湧いてくるから不思議です。
さらに見れば見るほど「こいつは悪人じゃない、バカなんだ」とわかってきます。
だからって二階から放り投げられては勘弁ですが。

そして解雇後は奇跡のV字回復ストーリー。

警察署で亡くなったウィロビー署長の手紙を読んで、眠っていた正義の心に火が付いた様子。
外では本当に火がついている様子。こういうおもしろすぎる演出は勘弁です。

っていうかアメリカの警察署って夜閉まるんですね。

改心後はバーで偶然にも犯人とおぼしき人物と遭遇。
すぐさま表へ出て車のナンバーを控えると、わが身を犠牲にして容疑者のDNAを搾取。

そしてDNA鑑定の結果、殺人事件の犯人と断定!…だったらとんだB級映画だな、心配して観てたら、無事(?)別人と断定。

しかし、アイツは別の事件のレイプ犯には違いないと、ミルドレッドと共にアイダホへ旅立ちます。

ドライブ中に、ミルドレッドから警察署の放火は自分がやった、と聞いても「アンタしかいないだろ」と即答。
バカかと思ってたディクソンが、一気に賢者モードへ突入です。

ディクソンのイメージは、
「やっと目が覚めたバカ」

大抵の人が自分のことをダメ人間と思ってるので、映画を観ると
「あんなクソ野郎でも変われるんだから自分だって」
と勇気づけられること間違いナシですね。

 

好きなシーン

見どころ満載の『スリー・ビルボード』で、やまぴーが特に好きだったシーンは以下の3つです。

スリー・ビルボード

ミルドレッドが花を植えるシーン

怒りの象徴であるはずの看板のまわりに花を植えはじめるミルドレッド。怒りからの解放を暗示させてくれるシーンです。
後半はそこで友達が出所してきたり、小男にハシゴを支えてもらったり。必要なくても支えてくれる人がいるっていいもんですよ。

ウィロビー署長の吐血シーン

挑発合戦をやっていたミルドレッドとウィロビーの泥試合が吐血で一変。血を吐いてショックのはずなのに「汚してゴメン」、汚されたほうも驚いて「人を呼んでくるわ」。
心の底では相手を認めていて、なんか武田信玄と上杉謙信みたい。

このやりとりの前に、窓の向こうの広告会社を見るミルドレッドの表情も好きです。自分がツラいときに楽しそうなヤツ見るとムカくつよね。

ディクソンがバッジを返すシーン

身を犠牲にして証拠を集めても、機密がどうこうで立件されず。
警察が裁けないなら俺が裁いてやるよ!と言わんばかりに警察バッジを返すディクソン。
刑事にはなれないけど善人にはなれたディクソン。カッコよすぎる。

 

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まとめ

ということで、非常に練られたストーリーで楽しませてくれた『スリー・ビルボード』
大半の人が楽しめるストーリーになっていること間違いナシです。

もはや★5つでもいいのでは?とも思いますが、若干あざといシーンがあったのが残念なところです。
ひっくり返った虫とか、突然出てくる鹿とか、湖に捨てられた人形とかはちょっといらんかったかな。

評判高いオレンジジュースのシーンも、やまぴー的にはクドかったです。
むしろその前の「泣くな!傷口にしみるだろ!」のほうがグッときました。

あと砂の国から来た男。なんでわざわざミズーリの田舎町まで来たのかよくわかりません。テレビの有名人おっかけるミーハーだったのかな。

とはいえ、このあたりのツッコミは全体の完成度からすれば取るに足らない問題ですけど。

観るときに楽しめて、観たあともいろいろ考えて楽しめる、久しぶりの二度おいしい良作でした。

 

◆こちらもオススメ

 

スリー・ビルボード

スリー・ビルボード
Three Billboards Outside Ebbing, Missouri

キャスト
フランシス・マクドーマンド – ミルドレッド・ヘイズ
ウディ・ハレルソン – ビル・ウィロビー保安官
サム・ロックウェル – ジェイソン・ディクソン巡査
ジョン・ホークス – チャーリー
ピーター・ディンクレイジ – ジェームズ
アビー・コーニッシュ – アン・ウィロビー
ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ – レッド
キャスリン・ニュートン – アンジェラ・ヘイズ
ルーカス・ヘッジズ – ロビー・ヘイズ
アマンダ・ウォーレン – デニス
サマラ・ウィーヴィング – ペネロープ
ジェリコ・イヴァネク – 警察官
クラーク・ピーターズ – アバークロンビー

監督 マーティン・マクドナー
脚本 マーティン・マクドナー
製作 グレアム・ブロードベント
ピーター・チャーニン
マーティン・マクドナー

音楽 カーター・バーウェル
撮影 ベン・デイヴィス
編集 ジョン・グレゴリー
製作会社 フィルム4・プロダクションズ
フォックス・サーチライト・ピクチャーズ
ブループリント・ピクチャーズ
カッティング・エッジ・グループ
配給 フォックス・サーチライト・ピクチャーズ、20世紀フォックス映画

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