【スポーツクラブ小説】スポーツクラブ・オブ・ザ・デッド

【スポーツクラブ小説】スポーツクラブ・オブ・ザ・デッド

 

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高慢と偏見とゾンビ

スポーツクラブ『アンブレラ』の常連会員、城治江ロメ子(じょーじえーろめこ)を何日か観察してわかったことは、どうやら彼女はゾンビになっていた、ということだった。

 

ロメ子のスポーツクラブ歴は長い。しかし、得られたものは健康や引き締まった身体ではなく、肥大した自尊心と、自分と似た気質の仲間たちだった。

ロメ子はスポーツクラブで仲間たちとスタジオレッスンに参加することを日課としていた。レッスン後は、仲間たちと館内に響き渡る声量でスタッフや別会員の悪口を言い合った。そして心の中では目の前にいる仲間にも毒づいていた。

ロメ子はどこのスポーツクラブにもいる典型的なマニア会員だった。

 

数日ものあいだ、ロメ子がゾンビになったことに誰も気づかなかったことは驚きである。しかし、これにはいくつか理由があった。

まず、ロメ子は生前より動きが遅かったため、ゾンビ化しても動きの変化があまりなかったのだ。

つぎに、発する言葉がうめき声に変わったが、もともと誰も彼女の話を聞いていなかったため、気づかれることがなかった。

ゾンビになっても入口にある体温検査もパスできたこと、マスク着用により口元の胆汁が隠されていたことも理由に挙げられる。

 

しかし、ロメ子のゾンビ化が気づかれなかった一番の理由は、ゾンビの特徴のひとつである『ゾンビは生前の行動を繰り返す』をロメ子が実践していたからだ。

どんなに天候が悪くともスポーツクラブにやって来ては、自分の誕生日にちなんだ番号のロッカーを使い、スタジオに入るとイントラそばの最前列で待ち構え、レッスンが終わると、スタジオから出る前にスマホを出して次のレッスンの予約をする。

機械学習プログラムのように生前と変わらぬ挙動を繰り返していたため、誰もロメ子がゾンビになったと気づかなかったのである。

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28日後

ある日、スタッフのひとりがウェアの表裏を逆に着ているロメ子を見て違和感を覚えた。そしてロメ子のいる常連グループの会話に聞き耳を立ててみると、ロメ子だけが暴言のかわりにうめき声を上げていた。

三度の飯より悪口が好きなロメ子にしてはおかしい。スタッフがロメ子の観察を続けていると、眼球にハエがとまっても動じず、入口の体温検査で表面温度は18.7℃になっていた。

スタッフルームでロメ子の話題が上がったとき、ホラー映画好きのアルバイトが「そりゃゾンビですよ」と、ロメ子の症状を言い当てた。

 

ロメ子のゾンビ化は会員たちも知ることとなった。ほかの常連たちはスタッフにクレームを入れた。ゾンビがスタジオに来るとはどういうことだ。感染したらどうする。除菌水は効果があるのか。

しかし、常連たちは文句を言うことはあっても、スタジオから離れることはなかった。ロメ子の隣の場所を定位置としていた常連は、スタッフに文句を言いながらも場所を変えることはなかった。

『感染の恐怖より前列の死守』

スタジオマニアにとって、二列目に下がることは人間を辞めることより恐ろしいのだ。

 

しばらくして、ロメ子の隣にいた常連の鱈橋ウディ亜(たらはしーうでぃあ)が、レッスン中にロメ子とぶつかり感染した。原因はロメ子ではない。他の常連とふざけながら後ろ向きに歩いていたウディ亜が、自分の定位置を超えてロメ子にぶつかったのだ。

さらに数日後、同じくマニア会員の転波須ジェシ花(ころんばすじぇしか)が休憩中に間違ってロメ子のタオルで汗を拭いたため感染した。

さらに前列にいた小岩アビ瑠(りとるろっくあびる)と宇壱田エマ与(うぃちたえまよ)も立て続けにゾンビ化。ロメ子がゾンビ化して28日後には、前列のマニア会員はすべてゾンビになってしまった。

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死霊の盆踊り

常連たちはゾンビ化してもスタジオに来ることは止めなかった。スポーツクラブ『アンブレラ』のスタジオ前列では、連日のように死霊の盆踊りが繰り広げられた。

 

スタッフたちは会員間でゾンビ感染が拡大していくことを危惧した。しかし、前列のマニア会員がゾンビ化して以降、感染が広がることはなかった。

後列にいる一般常識を有した会員たちは、感染前からマニア会員たちと精神的にも物理的にも距離をとり、近づかないようにしていたのだ。

 

また、スタッフたちはゾンビが増えたことでの会員離れも危惧したが、意外なことに会員が減ることはなかった。

後列の会員たちにとっては、マニア会員がゾンビ化して静かになった現在のほうが、騒がしかった以前よりはるかに喜ばしいのだ。

 

むしろ「前列のマナーが良いスタジオ」としてSNSでも話題となった。『#前列神対応』というトレンドワードまで誕生した。

館内も罵詈雑言がうめき声に変わり、洋楽のBGMが聞こえるほど静かになった。スタッフたちも暴言を浴びることがなくなり、気持ちよく仕事ができるようになった。

 

『スポーツクラブ アンブレラ 花沢店』は、グーグルマップ上で星4.1という評価を得ている。近隣のスポーツクラブの評価が星2~3であることを考えると、かなりの高評価であり、顧客満足度の高さがうかがえる。

 

クチコミの多くを要約すると以下のとおりだ。

『館内が静かでスタッフの愛想も良かったです。スタジオレッスンで前列のマナーが良いことに驚きました。最高のスポーツクラブですが、ゾンビがいるので星ひとつマイナスします』

 

エンディングテーマ『Zombie / The Cranberries

スポーツクラブ雑記
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