こんにちは、松岡修造です!
ウソです、やまぴーです。
本日ご紹介したい映画はこちら↓
『アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』予告編(5月4日(金・祝)公開)
トーニャ・ハーディングについては「むかし名前聞いたなあ」ぐらいの記憶しかありませんでしたが、映画ポスターのスキャンダルなポーズが一気に興味を湧き立たせてくれました。
ナイスでゲスなポスターですね。
前半はネタバレなし、後半はネタバレありで映画の感想を語ります。
※なお、ネタバレなしパートでも公式情報レベルでのネタバレと、トーニャ・ハーディングの経歴についてのネタバレはあります。
あらすじ
映画のあらすじ
フィギュアスケート史上最大といわれる衝撃的な事件の意外な真相と、彼女の波乱万丈な半生の物語。
貧しい家庭で、幼いころから暴力と罵倒の中で育てられたトーニャ・ハーディング(マーゴッド・ロビー)
天性の才能と努力でアメリカ人初のトリプルアクセルを成功させ、92年アルベールビル、94年リレハンメル二度のオリンピック代表選手となった。
しかし、彼女の夫だったジェフ・ギルーリー(セバスチャン・スタン)の友人がトーニャのライバルであるナンシー・ケリガンを襲撃したことで、スケート人生は一変。転落が始まる。
一度は栄光を掴み、アメリカ中から大きな期待を寄せられたトーニャ・ハーディングだったが、その後、彼女を待ち受けていたのは・・・・・・。
ナンシー・ケリガン襲撃事件
映画の最大の焦点となる事件の概要はこちら。
1994年1月6日、リレハンメルオリンピックの選考会となる全米選手権の会場で、練習を終えたナンシー・ケリガンが何者かに襲われる事件が発生した。ナンシーは膝を殴打され怪我を負い全米選手権を欠場、トーニャはこの大会で優勝を果たした。
事件発生から2週間後、トーニャの元夫であるジェフ・ギルーリーらが逮捕される。トーニャにも疑惑の目が向けられ始めた2月1日、元夫がトーニャに不利な証拠と共に司法取引を受け入れた。全米スケート協会とアメリカオリンピック委員会はトーニャをオリンピックチームから追放しようとしたが、彼女は法的措置をほのめかしてそのまま留まった。
リレハンメルオリンピックが終わった後の1994年3月16日、トーニャは罪を認めることで、懲役刑を免れ3年間の執行猶予、500時間の奉仕活動、罰金16万ドルを受け入れた。その後、全米スケート協会は、1994年全米選手権での優勝と1999年までの公式大会出場権やコーチになるための権利を剥奪した。プロのイベントには制限がされなかったが、トーニャを起用しようとするプロモーターは現れなかった。
トーニャの経歴
・1970年オレゴン州ポートランド生まれ。12歳でトリプルルッツを成功させる。
・1991年-全米選手権でトリプルアクセルを成功させ初優勝を果たす。
・1991年-1992年シーズンのスケートアメリカで、トリプルアクセルを成功させ優勝を果たす。
・1992年の全米選手権は、3位となりアルベールビルオリンピックの切符を手に入れる。
・1992年のアルベールビルオリンピックでは、トリプルアクセルで着氷に失敗。総合4位入賞に留まりメダル獲得ならず。
・1992年-1993年シーズンは不調に陥る。
・1994年1月6日ナンシー・ケリガン襲撃事件
・1994年リレハンメル五輪では、テクニカルプログラムでミスを犯し10位と出遅れる。フリーは靴の問題が発生し、出番になってもリンクに現れず、失格寸前で登場。さらに、最初のトリプルルッツが1回転となる失敗の直後、突然泣き出して演技を中断。ジャッジに対して靴紐の不具合を訴えた。ジャッジはフリー演技のやり直しを認め、トーニャは演技を最初から行った。合計5種類の3回転も成功させたが、最終順位は8位入賞。一方のケリガンは総合で2位入賞・銀メダルを獲得した。
・2000年にボーイフレンドへの暴行容疑で逮捕され、完全にプロスケーターとしての道が閉ざされる。
・2003年プロボクシングに挑戦。
・2008年総合格闘家としてもデビューする。
これらの経歴をトーニャ含め複数の関係者が語っていきます。
でもみんな自分の都合のいいことしか言わないから、誰の言うことを信じたらいいのやら。
登場人物/キャスト
トーニャ・ハーディング/マーゴット・ロビー
<幼少期:マッケナ・グレイス>
アメリカ人女性初のトリプルアクセル成功者、現在は1児の母で造園業に従事。
絵にかいたような貧困層のヤンキー娘。だけどスケートの腕は超一流。ひたむきなのかビッチなのか、観てるほうは翻弄されっぱなし。
マーゴットのトーニャ本人かと思ってしまう演技が素晴らしいです。ハーレークイン役といい、イカれたヤンキー女の役をやらせたらハリウッドNo.1じゃないでしょうか。
幼少期のマッケナちゃんもいいです。『ギフテット』といい、家庭に問題のある天才児の役をやらせたらハリウッドNo.1じゃないでしょうか。
ラヴォナ・ハーディング/アリソン・ジャネイ
トーニャに大きな影響を与えた、超絶鬼母。トーニャは4番目の夫の5番目の子供。
鬼母に加えて旦那もたくさんなら子供もたくさんで、ワンピースのビッグマムみたい。上の予告編でもわかるように、鬼母っぷりがハンパないです。愛情なのか虐待なのか、娘の夢のためなのか自分の金儲けのためなのか。ワケがわかりませんが、その姿は「タイガー・マザー」を彷彿させます。
鬼母役を演じたアリソンは、2018年アカデミー助演女優賞、第75回ゴールデングローブ賞を受賞しました。そりゃするわな。
ジェフ・ギルーリー/セバスチャン・スタン
トーニャの元夫。オリンピック前のナンシー・ケリガン襲撃事件の中心人物。現在は別の女性と結婚。
普段は優しいけど、ついカッとなると手が出ちゃう。で、あとで謝って仲直りのセックス、という典型的なDV男。セバスチャンは『ローガン・ラッキー』の役といい、ちょっとバカっぽい役が似合いますね。
なお、襲撃事件のあと、アメリカでは膝を殴打すること「ギルーリる」と言うようになったとか。日本で浮気現場を目撃されることを「ヤグる」と言うのと同じですね。
ショーン・エッカート/ポール・ウォルター・ハウザー
ジェフの友人。自称諜報員。実際はニートで童貞。襲撃事件の実質首謀者。
ひとことで言えば最高。ふたことで言っても最高。コイツが登場するたびに映画館内で笑いが起こってました。なんでジェフはこんな奴と友達だったのかわかりません。登場シーンのたびになんか食ってるとかマンガかよ。しかも現実のショーンも自分のことを「諜報員」とか言っててマジ最高です。
ネタバレなし感想
この映画をひとことでまとめると、
ドキュメント映画じゃなくてソックリさんが多数登場するコメディ映画だけど、貧しくてもがんばる「労働者・オン・アイス」には同情するしかない
この映画は「ナンシー・ケリガン襲撃事件」を主軸に、トーニャ・ハーディングのこれまで人生を再現した、いわば「実話を元にした映画」です。
ですが、一般に想像される「実話を元にした映画」とはかなり系統が違います。いい感じでウソまみれな雰囲気がプンプンします。
当事者たちからインタビューを行い、当時の映像を忠実に再現した映画がなぜウソ臭さ満載なのか、ふたつのポイントからチェックします。
トレース感がハンパない
この映画の魅力は、当時の様子をトレースした再現力がハンパないことです。
まずトーニャを演じたマーゴット・ロビーが似すぎ。血縁者かクローンかと思うほど似すぎ。
というか出演者が揃いも揃って似すぎなんですよ。
モノマネ四天王かよ。
下の動画を見ると、いかに当時の様子を完全コピーしてるかが分かります。
(※ネタバレ映像あるので注意)
I, Tonya (2017) – scene comparisons
このように、3回転達成のときの表情はもちろん、端役のコーチの姿までも完全コピーしている『アイ、トーニャ』。
実話を元にした映画のなかでも群を抜いたトレースっぷりです。
バカっぷりもハンパない
しかし、一方でバカっぷりもハンパありません。
そもそも登場人物の大半がバカかクズかその両方です。
ヤンキー女と児童虐待母とDV男とパラサイト童貞ニート。
いわゆるDQNとか言われる人種です。
貧困のせいで性格が歪んだのか、性格が歪んでるから貧困になったのか、あるいはその両方か。
自分勝手で、その場の勢いで行動して、ずっと貧乏から抜け出せない。
まさに私たちそのものじゃないですか。
そんな人間のインタビューを元にしてるから、どいつもこいつも自分に都合のいいことしか言ってないようで物語が破綻しまくりで整合性が取れてません。
登場人物がいきなりスクリーンの方を向いて「ホントはこんなことしてないけどね」とか言うくらいです。
ひとつだけ確実なことは「コイツらみんなバカ」ってことだけです。
事件の描写もバカすぎて緊迫感のカケラもありません。
っていうか被害者になったケリガンが可哀そう。
この映画をドキュメント映画だと思って観たら痛い目に会いますよ。
この映画は、ソックリさんが多数登場するコメディ映画です。
実話を元にした映画なのに、監督が冒頭でいきなり「ホントのことはよくわからん」と、投げっぱなしジャーマンスープレックスをかましてるだけはあります。
そう、この映画は総合格闘技ではなくプロレスです。
まとめ
「ナンシー・ケリガン襲撃事件」という実際の事件を扱いながら、ドキュメント映画ではなく娯楽映画に仕上げた『アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』。
やまぴー的にはこの脚色は大正解だと思います。
だって、「幼い頃から暴力で虐げられてきた貧困層の少女が、スケートだけを人生の望み頑張ってきたが、その夢もまわりの人間のせいで絶たれるドキュメント」なんて痛々しくて観てられないですよ。
たまにスクリーンに話しかけるぐらいのノリがちょうどいいです。
人生を賭けたスケートそのものだって、衣装とか家柄だとか実力以外のところで評価されて入賞できないなんて可哀そうで泣けてきます。
入賞できない話も実際のところはウソかホントかわからないんですけど。
っていうか多分ウソなんでしょうけど、観てるときはホロっとだまされちゃうんです。
映画で後半にものすごく泣けるシーンが登場しますが、後ですごい肩透かしを食わされます。ほんとバカとクズばっかだわ。
それでも、貧困層ながらスケートを続ける「労働者・オン・アイス」なトーニャの姿に感動させられることは確かです。
まさしく笑いあり涙ありの良作です。ぜひご覧になってみてください。
余談ですが、映画の中にあった「労働者・オン・アイス」って言葉が個人的に超ツボでした。
翻訳者の中沢志乃さんの素晴らしい仕事ぶりです。
※ここから先はネタバレありです。知りたくない人は映画鑑賞後にまたお会いしましょう。
ネタバレあり感想
四番目の夫の五番目の子供
ここではネタバレおかまいなしで、思ったことを書き殴ります。
まずはトーニャが育った環境。なんのためにウサギ狩りしてるのかと思ったら自給自足で毛皮のコートづくりとは、貧乏感ハンパない。
っていうか子供にも毛皮の衣装が必要なスケート界ってなかなか歪んでます。
金を払っている練習時間にはトイレも行かせずスケートの練習。友達づくりも禁止。
英才教育なのか児童虐待なのか判別できないタイガー・マザーっぷり。
学校で写真撮影がある日にスケートの衣装を着せて登校させて、あとでプロフィール写真にも活用する発想は、むしろ賢いとさえ思いました。マネする親が出てきそう。
マッケナちゃんが可愛すぎ。なのに中指おっ立て。
母親の演技が素晴らしすぎ。そして肩に止まったインコの演技も素晴らしすぎ。
アリソンの受賞にはインコも貢献してるはず。
知らない男に金を渡して演技前の娘を罵倒。あの子は罵倒されないとやる気が出ないから。ウエイトレスで稼いだ金を払ってまで罵倒させてんのかと思うとただのイカレ鬼母とも思えない。
娘の腕にナイフを刺しても謝らないけど、娘の演技は仕事中でもしっかりチェック。
事件で追い詰められたトーニャの自宅へ行って、ずっと言えなかった言葉「お前はがんばった」。
からのまさかの盗聴テープ。
もうお見事としか言えません。インコいなくても受賞してたな。ラヴォナ本人に賞あげてもいいかもな。
母の愛憎を受けて育ったトーニャも見事に歪みまくり。
ナンシー・ケリガンに対しての
「殴られたっていっても一回でしょ?あたしは毎日殴れらたよ」
の一言はマジ鳥肌モノです。
現実じゃあジェフの後にできたボーイフレンドに暴力振るってるらしいし、全然悲劇のヒロインじゃない。だが、そこがいい。
「愛されて、嫌われて、最後は笑われる」も名言。
最後は茶番のようにボクシング界に進出。トリプルアクセルとノックダウンの映像のコラボが見事。
倒されても「これがあたしだから」と、血ヘド吐いて起き上がる姿には奮えさせられます。
まさしく”THIS IS ME”。グレイテストな人生劇場。
労働者・オン・アイスに拍手。
四歩先をいく
ジェフとショーンの突き抜けたバカっぷりはお見事。
トーニャもコイツらと会ってなければまだマシな人生だったのに。ヤンキー引き寄せの法則。
でもトラック暴走シーンはすげえ楽しそう。
大ゲンカのあとに冷蔵庫いっぱいのアイスクリーム。バカな男ほどこういうことやるよね。で、バカな女ほど騙されるよね。(私たちのことですよ)
世間を騒がせたケリガン襲撃事件も、「O・J・シンプソン事件」の登場で忘却の彼方に。
ジェフの自宅から引き上げるマスコミ。ゲスなのはジェフたちなのかマスコミなのか大衆か。
ショーンの行動がどこまで本当なのかすげえ興味湧きます。
襲撃直後に言いふらすとかする?でも「四歩先を」と言ってるヤツならやるかも。
母親がFBIに紅茶出したのは本当だと思う。
インタビュー中の「でもしてませんよね」に映画館内が爆笑。
ていうかジェフはなんでコイツとつるんでたんだろうか。
っていうか、やっぱりいろんな意味でケリガンが可哀そう。
第四の壁
登場人物たちが物語の途中で観客に向かって話しかける、通称「第四の壁」。
ストーリーそのものはかなり報われない内容なので、こういう演出があると救われた気分になります。
トーニャ本人がケリガン襲撃するシーンなんかも。
この映画で唯一の良心だと思ったコーチまで、トーニャの特訓シーンで
「これ、ホントにやったのよ」
とこちらを向いて語りかけたときは、やまぴー的に「お前もかい」とツボでした。
っていうか、このロッキーの特訓ってスケート関係ないよね?
止めようぜコーチ。
どうでもいいけど、このシーンで亀田親子を思い出してしまった。
全体的にこの映画ってちょっと亀田親子っぽいと思う。
アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル
I, Tonyaキャスト
トーニャ・ハーディング – マーゴット・ロビー
ジェフ・ギルーリー – セバスチャン・スタン
ラヴォナ・ゴールデン – アリソン・ジャニー
幼少期のトーニャ・ハーディング – マッケナ・グレイス
ショーン・エッカート – ポール・ウォルター・ハウザー
ダイアン・ローリンソン – ジュリアンヌ・ニコルソン
ナンシー・ケリガン – ケイトリン・カーヴァー
ドディ・ティーチマン – ボヤナ・ノヴァコヴィッチ
マーティン・マドックス – ボビー・カナヴェイル監督 クレイグ・ガレスピー
脚本 スティーヴン・ロジャース
製作 スティーヴン・ロジャース、マーゴット・ロビー、トム・アッカーリー、ブライアン・アンケレス
音楽 ジェフ・ルッソ
撮影 ニコラス・カラカトサニス
編集 タティアナ・S・リーゲル
製作会社 ラッキーチャップ・エンターテインメント、クラブハウス・ピクチャーズ
配給 アメリカ合衆国の旗ネオン、ショウゲート