こんにちは、やまぴーです。
今回ご紹介する映画はコチラです。
トム・フォード監督最新作『ノクターナル・アニマルズ』予告編
20年前に別れた夫から送られてきた小説。
それは愛なのか、復讐なのか。
曖昧になっていく
現実と小説の世界
※今回ははじめからネタバレ全開です。
知りたくない人は、映画を観てからまたお会いしましょう。
あらすじ
別れた夫から送られた小説は
何を意味するのか――。
愛と復讐の美しきミステリー。スーザン(エイミー・アダムス)はアートギャラリーのオーナー。夫ハットン(アーミー・ハマー)とともに経済的には恵まれながらも心は満たされない生活を送っていた。ある週末、20年前に離婚した元夫のエドワード(ジェイク・ギレンホール)から、彼が書いた小説「夜の獣たち(ノクターナル・アニマルズ)」が送られてくる。
夜のハイウェイの運転中に、レイ(アーロン・テイラー=ジョンソン)らに襲われるトニー(ジェイク・ギレンホール二役)とその妻(アイラ・フィッシャー)と娘(エリー・バンバー)。家族を見失ったトニーはボビー・アンディーズ警部補(マイケル・シャノン)と共に行方を探すのだが……。
彼女に捧げられたその小説は暴力的で衝撃的な内容だった。精神的弱さを軽蔑していたはずの元夫の送ってきた小説の中に、それまで触れたことのない非凡な才能を読み取り、再会を望むようになるスーザン。彼はなぜ小説を送ってきたのか。それはまだ残る愛なのか、それとも復讐なのか――。
監督&キャスト
監督・脚本・製作 – トム・フォード
トップデザイナーでありながら、映画監督としても才能を発揮しているという恐るべきマルチな才能を持つ人。デビュー作である『シングルマン』でアカデミー賞やゴールデングローブ賞にノミネートされてるすごい人です。
『ゲット・アウト』のジョーダン・ピール監督といい、『マイティ・ソー バトルロイヤル』のタイカ・ワイティティ監督といい、ホントのマルチな才能の人が増えたなあ…。
スーザン・モロー – エイミー・アダムス
本編の主人公。19年前に小説家を目指していた前夫エドワードに見切りをつけ、実業家のハットンと再婚。同時期にエドワードの子を彼に知らせず堕胎。その後スーザン自身は芸術家の道を諦めギャラリーのオーナーに。しかし、現在は夫の事業は破産寸前なうえに浮気までされている始末。最近、別れた夫を思い出していたところ、前夫から”夜の獣たち”という著作が送られてくる。その暴力的な小説の内容にスーザンは引きこまれていくが…。
人生が疲れてきた表情や、無意識に男を傷つける振る舞い、ブルジョワ思想など、作品的にいい感じで「嫌な女」になってます。
演じるのは、『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』『魔法にかけられて』『メッセージ』『ジャスティス・リーグ』のエイミー・アダムス。
トニー・ヘイスティングス/エドワード・シェフィールド – ジェイク・ギレンホール
エドワード:スーザンの前夫。小説家を目指し本屋で働く日々をスーザンから否定され、離婚される。さらに自分の堕胎される。離婚から19年後にスーザンへ著作”夜の獣たち”を送る。
トニー:小説の主人公。ハイウェイでならず者3人に因縁をつけられ、妻と娘を誘拐・レイプされたうえに殺される。
現実でも小説でもいい感じで「繊細を通り越して気弱なダメ男」になってます。
演じるのは、『シティ・スリッカーズ』『ブロークバック・マウンテン』『ナイトクローラー』『ライフ』のジェイク・ギレンホール。
ボビー・アンディーズ – マイケル・シャノン
小説に登場するテキサスの警部補。トニーの事件を解決すべく、ならず者たちを追い詰める。末期ガンに犯された後は、法を越えてでも正義をなそうと奮闘する。
めちゃくちゃ顔が怖い。でもめちゃくちゃいい人。後半の危機迫りっぷりがすごい。この作品でアカデミー賞助演男優賞にノミネートされたのも納得できる、いい感じの「コワモテ警官」です。
演じるのは、『恋はデジャ・ブ』『レボリューショナリー・ロード』『マン・オブ・スティール』のマイケル・シャノン。
レイ・マーカス – アーロン・テイラー=ジョンソン
小説に登場するならず者のひとり。トニーの妻と娘を誘拐し、レイプのうえに殺害する。
弱い者をなぶる姿や捕まってもシラを切る姿など、悪党っぷりがすさまじい。野外で全裸になって大便までする、いい感じの「クソ野郎」です。
演じるのは、『キック・アス』『GODZILLA ゴジラ』『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』のアーロン・テイラー=ジョンソン。
ローラ・ヘイスティングス – アイラ・フィッシャー
トニーの妻。ハイウェイで因縁をつけられたレイたちに娘と共に誘拐され、レイプの後に殺される。死因は頭部への殴打。
演じるのは、『スクービー・ドゥー』『華麗なるギャツビー』『グランド・イリュージョン』のアイラ・フィッシャー。
インディア・ヘイスティングス – エリー・バンバー
トニーの娘。ハイウェイで因縁をつけられたレイたちに母と共に誘拐され、レイプの後に殺される。死因は骨折を伴う窒息死。
演じるのは、『高慢と偏見とゾンビ』、またモデルとしても活躍しているエリー・バンバー。
ネタバレあり感想
この映画の感想をひとことで言うならば、
考えるほどに現実と小説の繋がりを楽しめる良作
正直に言うと、観終わった直後は「え?これで終わり?」という、中途ハンパさを感じてました。
期待していたほど現実と小説の世界も繋がってなかったような…。
風呂場でのポーズとか死体のポーズとかぐらい。
スマホ動画のなかで、ベッドで寝ている赤ん坊のそばからいきなりレイが出てきますが、一瞬出てきて終わりで肩すかしな印象です。
覚えていることといったら、
「彼の精子はココナッツ並みの薄さよ、でも出るだけマシね」
といったお下品な会話だったり、やたらとゲイ要素が出てきたことだったり。
一番記憶に残ってるのは、巨デブのオバハンたち豊満ボディすぎるのマダムたちの全裸ダンスです。あれは十代の男子が観たらトラウマになっちゃうよ。
ですが、帰りの電車で公式HPの内容読んでたら、ああそういうことだったのね!、と遅ればせながら理解できました。そしておもしろさが大幅アップ!
この作品は、考えるほどに現実と小説の繋がりが楽しめるかなりの良作です。
※この先の感想は、やまぴーの個人的な見解で勘違いが含まれてます。
繋がる現実と小説
はじめにやまぴーは、小説を読んでいくにつれて現実が浸食される映画だと思ってましたが、この考えがそもそも大まちがい。
小説の内容が、過去のスーザンとエドワードに起こった出来事と繋がっている映画でした。
わかりやすい点としては、小説の主人公トニー・ヘイスティングスが、エドワード自身であること。これは気弱な性格で、俳優が同じ点からも理解できます。
次に、小説に出てくる”夜の獣”=レイ・マーカスたちがスーザンを象徴していること。これはスーザンがエドワードから”夜の獣”と呼ばれていたこと、小説がスーザンに捧げられていること、さらにはスーザン自身がエドワードに「ひどい仕打ちをした」と言っていることからわかります。
そして一番重要なのが、小説のなかで無残に殺された妻と娘。これはスーザンに相談もなく堕胎されたエドワードの子を象徴しています。その根拠となる点は3つ。
・二人の死体が映された直後に現実のスーザンの娘が同じポーズで眠っていること。
・二人を殺したならず者たちは別件逮捕まで見つからなかったが、現実に堕胎したときも現在の夫ハットンから「気づかれないよ」と言われていること。
・スマホ画面で赤ん坊のそばにレイが現れたことは堕胎の暗喩。壁にあるアート作品には「REVENGE」の文字。
思い出してみると、スマホのレイにもちゃんと意味があったんですね。
そう思うと、庭先で全裸で大便しているレイも、スーザンの無神経の象徴かもしれません。
現実と小説との接点をまとめると、
・トニー=エドワード
・レイ(ならず者たち)=スーザン
・妻と娘=堕胎した子
となります。
考えれば考えるほど現実と小説の世界が繋がっておもしろい。
勘違いもあるかもしれませんが、考えなんて人それぞれです。
小説を送った真意
もうひとつ疑問となる点は、
「なぜエドワードはスーザンに小説を送ったのか?」
小説のなかのレイのセリフがヒントになります。
人を殺すのは楽しいぜ
お前もやってみるがいい
これは「復讐」のことではないでしょうか。
スーザンが封を開けようとしたときに指を切り出血することからも、小説の存在がスーザンへの攻撃だとわかります。
悪い奴をのさばらせておけないだろ?
何者であれ 罰を受けずに 逃がすものか 誰も
悪党は絶対に罰をうけなくてはならない
小説には恐ろしいまでに「復讐」を暗示するセリフが登場します。
スーザンは”夜の獣たち”の完成度に驚き、エドワードに再会したいとメールします。
タイトルと内容から自分のことを書かれていると気づかないんでしょうか。
メールを見たエドワードも怒りを越えて笑っちゃうでしょう。
「こんな鈍い女に俺は徹夜で書いた作品ディスられてたのか」と。
で、再会する約束したけどすっぽかしてやったぜざまぁみろ、と。
それはそれでエドワードがちっちゃい男ですね。
それぐらい歪んでるほうがいい小説書くのかもしれないけど。
エドワードのすっぽかしについて、もうひとつ可能性があると思ってます。
それはエドワードがすでに亡くなっていることです。
小説でも、トニーは復讐を終えたあとに銃の誤射で死んでしまいます。また、トニーを助けるボビーは、末期ガンであることを知ってから、法を越えてでも正義を果たそうとします。
エドワードは、自分の余命が長くないことを知り、最期の復讐として自分の小説を否定した相手へ最高傑作を送ったのではないでしょうか。
ここで気になるのはエドワードからのメールの返信ですが、これはスーザンの見間違いではないでしょうか。不眠症で物忘れがひどく、自分の行動も覚えていないという描写があるのでありえる話です。
エドワードが生きてても死んでても、どっちに分岐しても「スーザンざまぁみろ」なバッドエンドには変わりませんが。
失えば 二度と戻らない
まとめ
『ノクターナル・アニマルズ』は、観ているあいだはもちろん、観た後も物語を思い返して楽しめる良作です。
現実パートも小説パートも、各キャストの演技がすばらしいのでストーリーに没入できます。
またトム・フォード監督のセンスが生み出す映像が美しく、視覚的にも楽しめます。
ひとつ疑問だったのは、「愛と復讐の美しきミステリー」にしては、愛の要素が感じられなかったことでしょうか。
もう一度観れば愛についても理解できるのかもしれませんが。
後味がよくないので何回も観るのは厳しいですが、一度は観ておいて、そして自分なりに思いをめぐらせたい映画ですね。
10代男子ははじめの映像に気をつけて!
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『ノクターナル・アニマルズ』
[Nocturnal Animals]キャスト
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ジェイク・ジレンホール – エドワード・シェフィールド / トニー・ヘイスティングス
マイケル・シャノン – ボビー・アンディーズ
アーロン・テイラー=ジョンソン – レイ・マーカス
アイラ・フィッシャー – ローラ・ヘイスティングス
エリー・バンバー – インディア・ヘイスティングス
アーミー・ハマー – ハットン・モロー
ローラ・リニー – アン・サットン
カール・グルスマン – ルー
アンドレア・ライズブロー – アレシア
マイケル・シーン – カルロス監督 トム・フォード
脚本 トム・フォード
原作 オースティン・ライト『ミステリ原稿』
製作 トム・フォード、ロバート・サレルノ
音楽 アベル・コジェニオウスキ
撮影 シェイマス・マクガーヴェイ
編集 ジョーン・ソーベル
製作会社 Fade to Black Films